元役員の仕事はどう探す?退任後の選択肢と実務型顧問という道
役員や執行役員を退任された方、退任を控えている方に向けた記事です。元役員の仕事は、実務型顧問、社外役員、他社への転職、独立の4つに大きく分かれます。それぞれで経験がどう扱われるのかを公的な統計で確かめたうえで、決裁に関わってきた経験がそのまま価値になる実務型顧問について、求められるものと始め方まで整理します。

元役員が退任後に直面する現実
役員を退任したあとに多くの方が最初に気づくのは、これまで自分を支えていた仕組みが一度になくなることです。部下も、予算も、決裁の枠組みも、会社の看板も、役員という役職に紐づいていました。次に立つ場所では、その前提がそろっていません。この落差を先に織り込んでおくかどうかで、選択肢の選び方が変わります。
まず、働き続ける方が多数派だという事実から確かめます。内閣府の令和7年版高齢社会白書によると、男性の就業者の割合は60歳から64歳で84.0%、65歳から69歳で62.8%です。さらに、現在収入のある仕事をしている60歳以上の方のうち約3割が「働けるうちはいつまでも」働きたいと答えており、70歳くらいまで、またはそれ以上という回答と合計すると約8割が高い就業意欲を持っています。退任は働き方の区切りであって、働くこと自体の終わりではないということです。
一方で、会社の内側に用意された枠は広くありません。厚生労働省の令和7年高年齢者雇用状況等報告によると、70歳までの就業確保措置を実施済みの企業は34.8%です。規模別では、常時雇用する労働者が301人以上の大企業で29.5%、300人以下の中小企業で35.2%となっており、大きな組織にいた方ほど、社内に長く関わる仕組みは薄いという結果になっています。
では雇用の形で他社へ移るとどうなるでしょうか。厚生労働省の令和6年雇用動向調査によると、転職入職者の賃金は全年齢の計では増加が40.5%、減少が29.4%で、増加が減少を上回っています。ところが60歳から64歳では、増加は13.6%にとどまり、減少が60.9%を占めます。1割以上減った方だけで53.9%にのぼります。65歳以上でも、減少40.5%が増加23.7%を16.8ポイント上回ります。雇用という枠組みで移る限り、どれだけ重い決裁に関わってきたかより、年齢と募集の条件が先に効いてくるということです。
| 年齢層 | 増加した割合 | 減少した割合 |
|---|---|---|
| 全年齢の計 | 40.5% | 29.4% |
| 60〜64歳 | 13.6% | 60.9% |
| 65歳以上 | 23.7% | 40.5% |
この年代で転職する理由そのものも、若い世代とは違います。同じ調査で、転職入職者が前職を辞めた理由を年齢階級別に見ると、男性の60歳から64歳では「定年・契約期間の満了」が54.6%と過半を占めています。自分の意思で辞めたというより、任期や制度の区切りで次を探しているという構図が、統計にも表れています。
そしてもう一つ、数字には出にくい現実があります。中堅・中小企業に移った元役員の方が口をそろえるのが、任せる先の組織が薄いという点です。大企業では、方針を決めれば動かしてくれる部署がありました。移った先では、自分で相手先に足を運び、資料をつくり、商談の場に座ることになります。ここで生じる落差を、実務のギャップと呼びます。役員として磨いた「決める力」に、「自分の手で動かす力」を組み合わせられるかどうかが、退任後の分かれ目になります。
元役員の仕事の選択肢を4つに整理する
退任後の仕事は、契約の形と、これまでの経験がどう扱われるかという2つの軸で見ると、4つに整理できます。どれか一つに絞る必要はなく、組み合わせて進めることもできます。
| 選択肢 | 契約の形 | これまでの経験の扱われ方 |
|---|---|---|
| 実務型顧問 | 業務委託(複数社と並行して結べる) | 決裁の経験と人脈が、そのまま評価の対象になる |
| 社外役員 | 株主総会の決議による選任 | 監督者としての経歴と、会社からの独立性が問われる |
| 他社への転職 | 雇用契約 | 募集の条件が先にあり、年齢が条件に効いてくる |
| 独立・起業 | 自分で事業を持つ | 顧客をゼロからつくる力が別に求められる |
社外役員は、法律と取引所のルールが席そのものをつくってきた立場です。ただし候補者は株主総会に諮られる前に会社の側で絞り込まれるため、一般の求人のように応募して就く形が中心ではありません。監督を担う役割であることもあり、退任してすぐに複数の席が用意されるとは限らないのが実情です。
他社への転職は、役割を選び直せる道です。ただし先ほどの賃金変動のとおり、雇用の枠組みでは年齢が条件に効きます。独立や起業は裁量が最も大きい代わりに、これまで会社の看板が担っていた集客と信用を、自分でつくり直す時間が必要になります。
なお、退任した自社に顧問や相談役として残る道も含めた処遇の全体像は、役員退任後の処遇と、顧問契約という選択肢で整理しています。自社に残る受け皿がどう変わってきたのかを知りたい方は、あわせてご覧ください。
4つを並べたときに、株主総会も採用選考も挟まずに始められて、これまでの経験がそのまま値段になるのが実務型顧問です。次の章で、この立場が何を指すのかを具体的に見ていきます。
実務型顧問とは何か
顧問という言葉は幅が広く、企業が期待するものも一つではありません。大きく分けると2通りあります。一つは、社名と人脈を看板として置き、必要なときに人をつないでもらう関わり方です。もう一つは、相手を自分で見極め、ご紹介し、商談に同席し、成約まで一貫して関わる関わり方です。この記事で実務型顧問と呼ぶのは、後者を指します。
| 観点 | 看板としての顧問 | 実務型顧問 |
|---|---|---|
| 関わる範囲 | 助言とご紹介まで | 見極めからご紹介、商談同席、成約まで |
| 成果の見え方 | つないだ件数 | 事業が実際に前に進んだかどうか |
| 企業から見た価値 | 会える相手が増える | 商談が決まる |
| 本人が得るもの | 名前が役に立つ実感 | 自分の判断が事業を動かす手応え |
企業の側から見ると、この違いは切実です。決裁者に会えるところまでは進んでも、そこから先が動かないという相談は多くあります。相手の役員が何を懸念していて、社内でどう決まっていくのか。その読みができる方が同席するかどうかで、商談の進み方が変わります。だからこそ企業は、決裁の側に座っていた方に力を貸してほしいと考えます。
実務型顧問に求められる経験
求められる経歴は、営業部門の出身に限りません。購買、経営企画、事業開発、製造、財務など、どの領域であっても決裁に関わってきた経験は、相手企業のどの役職者にどう届けばよいかを見極める力に直結します。むしろ買い手の側に座っていた方は、企業が知りたい判断の基準をそのまま語れるという強みを持っています。
- 役員や決裁者クラスとの人脈と、その相手に話が届く筋道の見極め
- 相手企業のなかで意思決定がどう進むかという、経験にもとづく理解
- 商談や交渉を前に進め、成約まで運んできた実務経験
- 事業の数字と現場の両方を見てきた、全体を俯瞰する目線
- 若手に判断の基準を伝え、組織を動かしてきたマネジメントの蓄積
反対に、特定の国家資格は求められません。問われるのは肩書きの大きさよりも、相手企業が今ぶつかっている壁と、自分の経験がどこで重なるかです。どの役職者と、どんな課題を、どう動かしたのか。具体的な場面として語れるほど、相手は自社の状況に重ねてイメージできます。
商談のために足を運ぶことをいとわない方であれば、活躍の場はさらに広がります。現場で相手の反応を見ながら次の一手を決められることは、長い実務のなかで身につけてきた強みだからです。同行を前提とする案件は多く、それを歓迎する方ほど早く手応えを得ています。若手だけでは踏み込みにくい相手にも、決裁の側にいた方であれば落ち着いて向き合えます。
元役員が実務型顧問を始める手順
始め方は次の順序になります。退任の前後は引き継ぎや社内の整理が残っていることも多いので、まず棚卸しから入り、条件が整ってから相手企業との話に進むと無理がありません。
- 在任中に関わった案件と決裁の場面を書き出し、どんな課題を動かせるのかを言葉にする
- 人脈を業界と役職の層で整理し、どの企業のどの役職者に自分の名前で届くのかを具体化する
- 退任時の取り決めを確認し、守秘や競業に関する誓約の範囲を把握しておく
- 顧問を探す企業とつながる場にプロフィールを登録する
- 届いた相談ごとに、関われる範囲と期間、報酬の考え方をすり合わせる
棚卸しで大切なのは、経験がありますという伝え方で止めないことです。たとえば、どの業界のどの規模の企業に、どの役職者との接点があり、その相手が何を判断の基準にしているか。ここまで具体化できていると、企業は自社の案件に当てはめて話を進められます。人脈は数を並べるより、届く筋道を説明できることのほうが評価されます。
動き出す時期については、退任から間を置きすぎないほうが進めやすくなります。在任中の人脈や業界の状況は、時間の経過とともに更新が必要になるためです。すでに数年が経っている場合でも、今も連絡が取れる相手を洗い出し、そこから組み立て直せば十分に始められます。
顧問ダイレクトは、経験と人脈を持つ営業顧問と、営業を強化したい企業を直接つなぐマッチングサービスです。プロフィールを登録しておくと、条件に合う企業からオファーが届きます。退任後にどんな企業から求められるのかは、実際のオファーに触れながら確かめていくのが確実です。
報酬の考え方と契約の形
実務型顧問は、企業に雇われるのではなく、独立した立場で業務を引き受ける業務委託の形をとります。役員として会社と委任の関係にあった方には、感覚としてなじみやすい形です。報酬の決め方は、主に3つに分かれます。
- 月額固定は、毎月一定額を受け取りながら継続して関わる形です。
- 成果報酬は、商談の成立や契約の締結など、定めた成果が出たときに受け取る形です。
- 時間単価は、稼働した時間や日数に応じて受け取る形です。
水準の目安も公開されています。創業手帳の解説では、月1回から4回ほど関わる顧問契約型で月20万円から50万円程度、時間契約型で1日あたり3万円から10万円程度、成果報酬型では顧問が関わったことで得られた利益の10%から30%程度という目安が示されています。ただし顧問の報酬に公定の相場はなく、解説によって示す幅は異なります。実際の金額は、企業の規模、任される役割の重さ、関わる頻度によって決まります。
形態ごとのより詳しい目安と、金額を左右する要因については、顧問の報酬相場はいくら?形態別の目安と決まり方で整理しています。士業の顧問料とは考え方が異なる点も、あわせて確かめておくとよいでしょう。
報酬と同じくらい大切なのが、業務範囲と期間の取り決めです。何を行い、何は含まないのか。契約はいつまでで、更新はどう判断するのか。これらを先に言葉にして書面に残しておくと、始めてからの食い違いを避けられます。役員として契約の文言を見てきた方であれば、ここは得意な領域のはずです。
実務型顧問が向いている方・向いていない方
同じ元役員でも、この立場が合う方と合わない方がいます。先に向き不向きを知っておくと、始めてからのずれを避けられます。
- 自分の判断で動くことを楽しめ、経営者と対等に議論できる方は、この立場で力を発揮できます。
- 特定の業界で決裁者クラスと深くつながっている方は、その一点だけでも企業から強く求められます。
- 商談のために現場へ足を運び、成約まで見届けたい方は、企業が期待する関わり方とかみ合います。
- 業務範囲や報酬、期間を自分の言葉で取り決め、書面に残すことをいとわない方は、契約を安定して続けられます。
一方で、社内の指示系統のなかで役割が与えられることを前提にしている方には、業務委託という立場は負担に感じられることがあります。相手の状況を見て自分から動く主体性が問われるためです。過去の役職の大きさだけで価値を示そうとする姿勢や、条件を口約束のまま進める進め方も、この働き方では機能しにくいと言えます。
迷ったら、いきなり複数社との契約を目指さず、まず1社と深く関わって手応えを確かめるところから始めてみてください。そこで積み上げた実績は、次の依頼につながるだけでなく、社外役員の候補として検討される場面でも、そのまま語れる材料になります。
よくあるご質問
元役員の仕事にはどんな選択肢がありますか。
大きく4つに分かれます。業務委託で企業の事業課題に関わる実務型顧問、株主総会の決議で選任される社外役員、雇用契約で移る他社への転職、そして自分で事業を持つ独立・起業です。社外役員は候補者が会社の側で絞り込まれるため席が限られ、転職は雇用の枠組みである以上、年齢と募集の条件が先に効いてきます。決裁の経験と人脈がそのまま評価の対象になるのが実務型顧問です。
元役員が退任後に直面する実務のギャップとは何ですか。
大企業では方針を決めれば動かしてくれる部署がありましたが、中堅・中小企業では任せる先の組織が薄く、自分で相手先に足を運び、資料をつくり、商談の場に座ることになります。役員として磨いた決める力に、自分の手で動かす力を組み合わせられるかどうかが分かれ目になります。実務型顧問は、この2つを両方使う立場です。
元役員が転職すると、待遇はどうなりますか。
厚生労働省の令和6年雇用動向調査によると、転職入職者の賃金は全年齢の計では増加が40.5%、減少が29.4%ですが、60歳から64歳では増加13.6%に対して減少が60.9%を占め、1割以上減った方だけで53.9%にのぼります。65歳以上でも増加23.7%に対して減少が40.5%です。雇用という枠組みでは、経験の重さより年齢と募集の条件が先に効く傾向があります。
実務型顧問になるのに資格は必要ですか。
特定の国家資格は求められません。重視されるのは実務経験と実績、そして役員や決裁者クラスとの人脈です。営業部門の出身かどうかも問われません。購買や経営企画、事業開発、製造、財務などで決裁に関わってきた経験は、相手企業のどの役職者にどう届けばよいかを見極める力として評価されます。
実務型顧問の報酬はどのくらいですか。
創業手帳の解説では、月1回から4回ほど関わる顧問契約型で月20万円から50万円程度、時間契約型で1日あたり3万円から10万円程度、成果報酬型で得られた利益の10%から30%程度という目安が示されています。顧問の報酬に公定の相場はなく、解説によって示す幅は異なります。実際の金額は企業の規模と任される役割の重さ、関わる頻度によって決まります。
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